2004年12月29日

企業の社会的責任(CSR)を本質から考える

今年の仕事が、終わりました。
おかげさまで、今年も年末まで大盛況!
ありがとうございます。
そして、来年もよろしくお願いします。

でも、クリスマス・イブの日でさえ、夜中の3時半まで働いたのは、参りましたが(笑)。このお正月も、課題を抱えているので、実家でSOHO状態です。

さて、今年の企業法務、企業経営を振り返ってみると、一番注目を集めたテーマは「企業の社会的責任」(CSR=Corporate Social Responsibility)だと思います。

昨年の「コンプライアンス」に引き続き、今年は、どこもかしこも「企業の社会的責任」。ある企業の担当者の方が、「毎年毎年、ガバナンス、ISO、コンプライアンス、CSR・・・と次から次へと新しい話が出てきて大変だよ」とおっしゃっていたのが記憶に残ります。

ただ、一番心配なのは、コンプライアンスや企業の社会的責任といった考え方が、単なるブームに終わってしまうことです。

ところで、この「企業の社会的責任」。
実は考えれば考えるほど、よくわからないのが本音です。
そこで、今日は、私が考える「企業の社会的責任」論を。

経団連は、行動憲章(04.5.18)の柱書に「企業は、公正な競争を通じて利潤を追求するという経済的主体であると同時に、広く社会にとって有用な存在でなければならない。そのため企業は、次の10原則に基づき、国の内外を問わず、人権を尊重し、関係法令、国際ルールおよびその精神を遵守するとともに、社会的良識をもって、持続可能な社会の創造に向けて自主的に行動する」と記載しています。

この中の「広く社会にとって有用な存在でなければならない」との部分が、企業の社会的責任(CSR)を意味しているのだと思います。

企業は、法人として一つの人格を与えられた存在です。そのため、企業が、社会によって有用な存在でなければならないとの意識は、もちろん、当たり前だと思います。

しかし、行動憲章が「公正な競争を通じて利潤を追求する」ことと「広く社会にとって有用な存在でなければならない」こととを並列にとらえていることには、疑問です。

企業、特に株式会社は、商法という法律によって、「営利」法人として一つの人格を与えられています。商法は、企業に対して、「営利」を目的とすることを至上命題として課しているのです。

「営利」とは、企業が対外的活動によって利益を獲得し、配当を通じて株主に利益を還元することです。企業は、株主に利益を還元するためにできる最大限の活動をしなければならないのです。

そうだとすれば、企業が「利潤を追求する」ことと「広く社会にとって有用な存在でなければならない」としようとすることとは、相反します。CSRを徹底しようというのであれば、営利法人ではなく、公益法人であればいいわけです。

誤解をおそれずに言えば、企業がCSRを利潤の追求と並列的にとらえることは、商法違反になりかねないのです。企業に出資している株主を裏切ることになるのです。

わかりやすい例をあげます。

たとえば、あなたが競馬でお小遣いを稼ごうと思い立って競馬場に馬券を買いにいったと想像してください。
競馬場に着くと、競馬を的中させ儲けることを目的とする会社の人がいて「私の会社は皆さんからお金を集めて、皆さんの代わりに競馬を的中させる会社です。絶対に儲けてお金を倍にしますから、私に預けてください」とお金を集めています。
あなたは、なんとしても馬券をあてたかったので、その会社に30万円を預けます。
ところが、その会社の社長は競馬場に来ている人たちから合計1000万円を集めた後に「今、流行のCSRだ。集めたお金を老人介護に使おう」と思い立ち、1000万円のうち500万円を競馬に使わずに老人ホームに寄付しました。
そのうえで、あなたに対して「集めた1000万円のうち500万円はCSRのために老人ホームに寄付したので、お返しできるお金はありません」と説明してきました。

さて、あなたは、この競馬的中会社に対して、どう思いますか?
裏切られたと思いませんか?
「預けた金を倍にして返せよ」と思いませんか?

この競馬的中会社の社長は、あなたが「競馬に使ってくれ」と使用目的と特定して預けた金を勝手に他の目的に使っているのですから、横領か背任となる可能性さえあります。

単に、「利潤を追求すること」と「社会にとって有用な存在であること」を並列的にとらえようとすることは、この競馬の例と同じことです。競馬の例であげた「あなた」は、会社に出資している株主です。企業の役員が、株主が出資したお金を勝手に出資目的以外に使用した場合、横領・背任をしたのと同じなのです。

したがって、企業は、やはり第一義的には「営利」活動、つまり利潤を追求して株主に還元することを目的としなければいけません。
企業が社会的責任にもとづいて活動できるのは、その企業の営利目的にプラスに働く場合に限られるのです。

たとえば、企業が震災の被害者に対して救援物資を提供するケースです。
このこと自体、人と人との助け合いという観点からは至極当然です。
しかし、いざ企業が営利法人であるということを考えたときには、「震災者の人はかわいそうだから、会社一丸となって物資を提供しよう」と漠然とした感情で行うことはしてはいけないのです。もし、取締役が「被災者の人が、かわいそうだから」という気持ちで物資を提供するのであれば、それは取締役の自腹で行うべきなのです。自分たちがもらっている報酬の中から提供すべきなのです。企業のもっている財産は株主のものなのですから、株主に還元できない活動に企業の財産を使うことは許されません。
企業が救援物資を提供するときには「震災者の人たちに物資を提供すれば、将来、わが社の営利活動にプラスに働く」と考えて、提供しなければならないのです。

ひどく冷徹に聞こえるかもしれませんが、企業が営利法人であるという原理原則にさかのぼって考えると、こういう結論になるのではないでしょうか。

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弁護士浅見隆行
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浅見隆行
【プロフィール】
S50 東京生まれ
H5.3 早稲田実業学校高等部普通科卒業
H9.3 早稲田大学法学部卒業
H12 弁護士登録(第二東京弁護士会)、中島経営法律事務所入社
H17 同事務所パートナーに昇進
H18 母校早実が甲子園で悲願の全国制覇を達成
H21 アサミ経営法律事務所開設

【業務内容】
会社法、商事法一般を中心に、株主総会、危機管理、コンプライアンス、広報など、企業法務全般に精力的に取り組む。
広報は、各種ディスクローズ文書、企業不祥事発生時の各種リリース、新聞社告、記者会見、国会答弁まで幅広く活動している。

【主な著作物・研修・レクチャー等】
◆著作◆
「ネットリスクなるほどQ&A」(中央経済社、共著)
「実践コンプライアンス講座 これって違法ですか?」(日本経済新聞社、対談参加)
「事例でみる借地借家契約の解除」(新日本法規出版、共著)
「仕事の法律」(三笠書房、共著)
「Q&A新会社法であなたの仕事はこう変わる」(日本経済新聞社、共著)

◆最近の論文・コメント◆
「ライブドアによるニッポン放送の新株予約権の発行の差止請求に関して」コメント(夕刊フジ2005年3月5日付、3月23日付)
「ニッポン放送・SBIとの貸株契約について」コメント(夕刊フジ2005年3月26日付、日刊ゲンダイ2005年3月26日付)
「検証JR福知山線脱線事故 公益事業者の社会的責任は果たされたのか」(ガスマーケットレビュー2005年5月17日号)
「スキだらけの買収防衛策 ニレコ新株予約権差止め、後続に冷や水」(日経ビジネス2005年6月20日号)
「完全社外監査役」(中央経済社「税務弘報2005年7月号」)
「日本技開、株式分割、夢真、差し止め請求―司法判断3つのケース」(日本経済新聞2005年7月22日付)
「BSデジタル 民放5社 個人情報抹消」(日本経済新聞2005年9月7日付)
「信託業法改正に伴う知的財産信託制度の活用」(中央経済社「税務弘報」2005年11月号)
「TBS逆転秘策は」(夕刊フジ2005年10月21日付)
「ライブドアの再建方法について」ラジオ出演(J−WAVE「グッドモーニング東京」2006年1月31日)
「ライブドア、堀江氏の法的責任」コメント(夕刊フジ2006年2月6日付)
「ライブドア、堀江氏の法的責任」コメント(週刊プレイボーイ2006年3月 日付)
「敵対的買収防衛」コメント(日本経済新聞2006年4月24日付)
「製紙再編 株主支持獲得へ」(産経新聞2006年8月3日)
「日本製紙王子独走を警戒 識者コメント」(日本経済新聞2006年8月4日)
「取締役の法務」(日本経済新聞2006年8月15日)
「買収防衛TOB 製紙攻防で見えてきた課題」(日本経済新聞2006年8月21日)
「日立製原発タービン異常:巨額賠償の懸念」(毎日新聞2006年8月27日)
「東芝、ソニーへ賠償請求へ」(日本経済新聞2006年10月17日)

◆研修・レクチャー◆
各種企業、団体にて「コンプライアンスの考え方」「知的財産の管理・活用・防衛・訴訟の基礎」「クレーム対応マニュアル」「個人情報保護の実務」「Pマークを確実に更新するために」「公益通報者保護法と内部通報制度の構築・運営」など企業法務全般を解説
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